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2018年08月06日つばき谷の小道

子どもに教えられる

隠岐の島の障害児施設では、学校に通えなくて学園に居残ってしまった子どもや、中学卒業年令で就職できず行き場のない子どもたち対象に、指導員や保育士が療育活動や作業を行っていた。

Tさんは、施設入所時には15歳を超えていて、発達年齢は3歳程度。

不就学のままで離島の自宅で父親と2人暮らしであった。

障がい児施設へ入所した理由は、父親一人では彼女の面倒をみることができなくなったからである。

姉が同居していた幼児期は、きちんとしたしつけをしてもらっていたのであろうか、日常生活能力は獲得していた。

言葉は、幼稚ではあるが人とのコミュニケーションが可能な程度で、しかもおしゃべり好き。

文字は書けないが、「あ」「い」「う」「え」「お」と読むことはできる。

「いち」「にー」「さん」と大きな声で「じゅう」まで言えるが、まったく数字は分からない。

施設内の一室を使って、日中活動を始めた。

トイレで使用する落とし紙を何束も作らないといけない。

2枚のチリ紙を二折に折りたたみ、それを10束重ねにしていく作業である。

2枚をこのようにして折りたたんでいくのだと、手本を示しても、数字が理解できない彼女は、1枚を折りたたむ、3枚を折りたたむなど、めちゃくちゃな始末である。

それでも大きな元気な声で「いち、にー、さん」と唱っている。

どうすれば、彼女がほかの子と同じように作業に参加できるのか、結構悩んだ。

数字が分からなくても、作業結果がきちんとできればそれで結果オーライではないか。

まず私が1枚ずつ10枚のチリ紙を机に並べていく。

その下に同じ様に彼女にチリ紙を並べてもらう。

机の上に、2列で10枚ずつチリ紙が並んだら、上下あわせて二つ折りにし、ひとつの束をつくる。

同じ動作を10回繰り返し、10束を重ねるとみごとに、ほかの子どもと同じ結果を生み出すことができた。

そうなると私の仕事が増える、彼女は褒められるのでうれしくてたまらない。

このままずっとそうなのかと気重になりつつ2週間ぐらい続けていたが、ある日、突然2枚を二つ折りに自分だけでやってしまった。

私が1枚ずつ並べようとすると、「できるよ」といって、2枚のチリ紙を取り出し、二つ折りにし始めたのだ。

なぜだろう、いまでもわからない。

繰り返し、反復の効果だろうか、手先が覚えたのか、間違えることなくこの作業をやり遂げてしまった。

数字が分からなくても作業はきちんとできる。

そうした力を人は持っている。

その人が楽しければ、真似でもいいから続けることができれば、ゆっくりと待っていれば必ずその作業は自分のものになる。

知的な年齢が遅れていても、生活の年齢の幅を広げ、経験をそれなりに積み重ねていけば必ず結果が伴ってくる。

そうしたことをTさんは教えてくれた。

魔法の教育方法をTさんから学んだのである。

山はもう秋、吾亦紅とトラノヲが咲く、広島県民の森・池の段にて 7月11日

 

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